薬の価格(薬価) -オプジーボを例に-
「薬価」というものを聞いたことがありますか?
医療用医薬品の世界では、薬の価格のことを「薬価」と呼びます。
「薬価」が製薬業界では、ここ2〜3年、とても話題になっています。
なぜ話題かというと、オプジーボ®に原因があります。
オプジーボは、本庶先生がノーベル賞をとったことでも話題になりました。
でも、実は、薬価の面でも話題になっていました。
医療用医薬品は、病院に行き、処方箋を発行され、薬局で受けとるお薬です。
そして、薬局でお金を支払うのですが、支払った金額は、実は本当の価格の3割です。
7割は、税金が負担してくれます。
これが、国民皆保険制度、ですね。
医療用医薬品は、7割が税金負担ですから、製薬会社が勝手に超高額な薬価を設定すると、国は困ります。
なので、薬価は国が決めています。
薬価の決め方
薬価の決め方の細かいルールはいろいろありますが、基本は2つしかありません。
- 同じような薬が先にあれば、それと同じくらいの価格(類似薬効比較方式)
- 同じような薬がなければ、製造コストを考慮された価格(原価計算方式)
そこに、「市場規模(患者人数×薬価)」をあてはめ、「製薬会社の採算性」と「国の税金負担額」が考慮され、薬価決定となります。
決定された薬価は、約8年間は大きく変更されません。
患者人数は、各疾患で激増/激減があるわけではありません。
薬価は、国が決めていて、価格弾力性がありません。
つまり、医療用医薬品に限れば、本質的には、計画経済なのです。
オプジーボ®の薬価
そんな計画経済の中、なぜオプジーボ®の薬価が問題になっていたのでしょう。
オプジーボは、当初「悪性黒色腫」にのみ使用が許可されていました。
「悪性黒色腫」は、簡単にいうと、「治りの悪い皮膚ガン」です。
この病気は、先行する医薬品もなく、重症で、致死率も高かったようです。
重病/難病に対して効果を示す薬は、国も高く評価してくれます。
さらに、「悪性黒色腫」は患者数が、470人程度と考えられていました。
したがって、原価計算方式で計算され、市場規模も考慮されて薬価が決まりました。
その結果、薬価は当初、約15万円/20mg、約73万円/100mg、でした。
そして、ピーク売上高は、31億円と試算されていました。
(こちらにが公表資料)
オプジーボ®薬価の問題
患者さんにとっては幸、国にとっては不幸(?)なことがありました。
小野薬品はたて続けに「悪性黒色腫」以外のガンにも正式使用できるよう手続きをしました。
今では、「悪性黒色腫」「腎細胞癌」を含む6種類のガンに正式使用できます。
さて、問題は財政面です。
31億円と予想していた売上高ですが、なんと2016年度に1,000億円を超える売上を記録します。
国民皆保険制度を単純に考えても、700億円以上が税金負担。
保険制度も複雑なので、実際はもっと税金負担が多かったはずです。
この状況を国は問題視。
例外として、8年間は変動が少ないはずの薬価を引き下げました。
今では、オプジーボ®薬価は、以下の通りです(2018/11時点)。
- 約15万円/20mg → 約5.8万円/20mg
- 約73万円/100mg → 約28万円/100mg
さらに、国は薬価制度の抜本改革にとりくみ始めました。
最後に…
オプジーボ®の話が長くなりましたが、この記事でお伝えしたいことは、
- 医療用医薬品の価格(薬価)は国により決められている
- 薬価は製薬会社が勝手に決められるものではない
- 一定期間(約8年)、薬価は変動が少ない
- 2018/11現在、薬価は医療業界では超トピック(ルールが変わりつつある)
ということです。
いちおう付け加えておくとすれば、製薬会社に勤務していた者としては、
- 良い薬を作り
- (予想外に)有効性を示し
- (予想外に)売れたとき
それが批判の的になっているのは、複雑な気持ちですね。